秋江
(しゅうこう)

<演目紹介>
明の萬暦に高簾が書いた戯曲「玉簪記(ぎょくしんき)」の一節をコミカルな小品に仕立てたもの。

<見どころ>
登場人物は青年を追う娘と船頭のふたりだけである。舞台に舟の小道具らしきも見当たらない。
櫂一本を手にした船頭と娘のぴったり合った呼吸は、あたかも小舟に乗っているかのような
錯覚を起こさせる、見事な芸の力。
秋の川は波が高く、大きく揺れる・・・その様が見事に表現。



<あらすじ>
若い尼僧の陳妙常は、想いを寄せていた青年が旅立ったことを知り、
後を追って渡し場に駆けつけるが、既に舟は出たあとだった。

  手を挙げて叫ぶ「船頭さーん!」
右手に持っているのは、尼僧であることを表す‘払子(ほっす)’




「船頭さん、藍の長衣を着た若いお方を見なかった?」
「その人なら、舟でさっき行ったわい」
「おじさんの舟で追いつけるかしら・・・?」





「なあに、他人の舟ならいざ知らず、わしの舟なら足に油を塗ったよう。あっという間に追いつくさ!」

「おっと!尼さん、あんたと彼の関係は?」
「・・・あの人は友達・・・渡すものがあって・・・」
「男友達?それなら船賃は3倍だ!」

娘は老船頭に急いで舟を出してくれと頼むが、船頭はわざとじらしてなかなか舟を出さない。
いたずらっぽい船頭と恥ずかしがり屋の娘のやりとりがおもしろい・・・。
舟を漕ぎながら、さらにやりとりは続く。


 

船頭唱う。
「風に乗り、波を切り、舟は進む。秋風がひとしきり紅葉を散らす。あんたは川面に咲いた蓮の花」
陳妙常唱う。
「愛するつらさは絶ちがたく、心残りも断ちがたい。
君の愁いはいかほどか、春の水、東に流れるに、さも似たり」



ついには見事な櫂さばきで青年の乗った舟に追いつく。

(写真は1980年の陳妙常・李維庚)



<tuziの感想>
この作品は上演時間も短いので、サブ上演となる。京劇の上演は3作品立てがほとんど。
メインに大作があって、小品が2作品の組み合わせとなる。
例えば、私が見た上演は「孫悟空」メインで、「秋江」と白蛇伝の「盗草」の3本立てだった。
波で、小舟が縦に揺れる・・・舳先が下がれば船尾に乗っている娘は浮き上がる・・・。
京劇の凄いところは上下の動きだけではない。同時に揺れながら旋回するのだ!
見てるこっちが船酔いしそうなくらい・・・。








vol.15