太極拳in香港(3)

2000年5月31日

師父の剣
毎朝師父は‘拳’の前に‘剣’(楊式)を2回繰り返している。
私も、一応独学で‘楊式剣’の予習はしていたが、すんなり動けるまでではなかったので
私は毎朝師父の剣を見学していた。
師父の50年前に習った楊式剣は、切り込む位置が一様に高い。刺す位置もやはり高い。
以前、ビデオで西安在住の楊式の先生(女性だった)が表演しているのを見たことがあったが、
やはり高かったっけ。
「あの、頭の位置を越える高さは、いったい相手のどこを狙っているものだろう?」と
私は不思議に思ったものだったが、その疑問を師父に聞くこともなくいまだに不明のままだ。

師父の指導
大まかにではあるが動作をひと通り通せるようになった私に、師父は第2段階の指導に入った。
ひとつひとつの動作の細部に注意がされるようになったのだ。
‘白蛇吐信’の左拳の出し方(掌ではなく剣指を出すのです)や、転身の際の構え方・・・
斉(ji)から按(an)に移る際の手は指先を下げてはならないこと。
雲手の手の運び、足の運び・・・穿梭の手の運びなど・・・。

師父の注意の仕方は、私が言葉がわからないので、師父自身が私の直したいヶ所を叩いて
示します。私が叩かれるのではないですよ。
手の動きを直したいなら師父は自分の手をパンパンっと叩いて私に知らせるのです。
足なら足をパンパンっと叩くというようにして・・・
それを見て、「あー、足の運びがうまくないのね・・・」と私は気づくのです。
しょっちゅうパンパン鳴るので、なかなか先に進みません。
「(すいません、中断ばかりさせて・・・)」
「(何度も同じところで中断させないように、一度で覚えねば!)」と必死になる私なのでした。

‘気’のこと
前回、前々回と動くことすらできず、手も足もでなかったわけですが、
その時と今回では疲労度がまるで違います。
套路(次の動作がわかっている)を知っているということで、流れが止まらずに済みます。
流れが止まるというのは、とにかく疲れるのです。

流れとは何?
私は、それは呼吸であり、気ではないかと思うのです。
‘気’なるものについては定かではありません。
私自身このことには何の確証も持てずにいるのですから・・・
気功の本を読むと、こぶし大の気の塊が体中を巡る体験をした人の話がよく出てきます。
頭のてっぺんからつま先まで巡れば‘大周星’上半身だけなら‘小周星’という名前までついています。
でも、私はこのような経験をしたこともありませんし、
「そんなこぶし大の塊が体の中をグルグル回ったら気持ちが悪くないのか?」
いまだに‘気’とやらをさっぱり理解できずにいるのです。

気功は好きだが太極拳はしていない友人に言わせると、
「ほら、元気の‘気’よ!今日はヤル気があるとか気が乗らないとか言うじゃない!
あの‘気’よ!」
なのだそうだが、そう言われても
「(だから、それは何?それは塊になって回っちゃうの?えー!?わからな〜い)」なのだ・・・。

中国の太極拳をしているメル友にも‘気’のことを聞いてみた。
その時、彼はヒントをくれる回答をしてくれた。
「‘気’なんてことは考えなくていいのだ。
そんなことを考えているから‘無心’になれないのだよ。
何も考えないで太極拳を無心に打っていればそれでいいのだ!」とバカボンの父のようなことを言ってくれた。
「そうなのだ!それでいいのだ!」とこれには目から鱗が・・・と私も大いに納得したのでした。

こんな私でも「気が合う」とか「馬が合う」というような‘気’なら理解できないこともない。
太極拳もいっしょに打っていれば「ははあ・・・」と何か思い当たるものが何かしらあるものです。
その要因のひとつに‘呼吸’があるのではと私は思っているのです。
‘阿吽の呼吸’とか‘息を合わせる’とかいう・・・
お笑いでいう‘空気を読む’とか・・・
だけど‘空気は読める’けど、その‘空気’例えば重苦しい空気を‘変える’ことは私にできない。
そんな‘気’って一体何? 自由自在に回す人がいる‘気’って一体何だろ?

向かいのレストラン
Tシャツも汗でグッショリで絞れば汗が滴ってしまうほど練習した。
今日は、師父夫妻が日帰り旅行に連れて行ってくれることになっていた。
朝食をとってから、11時頃の船に乗るという。
だから、今日は2年前に私が連れて行ったホテルの向かいのレストランに行くことにした。
食事がすんだら、私はすぐ着替えて出かけられるからだ。
師父と私はこういうせっかち?段取りのよさ?は似てるのだ。

レストランのお姉さんは2年前と同じ人だった。(1998年香港‘3対1の攻防’参照)
この日、珍しく師父もお粥を注文し、私に「食べ物で何が好きなんだ?」と聞いてきた。
その意図を取り違えて「西瓜!」と即答した私を静かに微笑みながら見守る師父・・・
「ここには西瓜はないから、ここにあるものでは何が好きなんだ?」というではないか。
「あっ、そういう意味ね・・・だったら腸粉です!」
腸粉とは、トロトロの米粉の皮の中に海老などの具を巻いたものを蒸して、ソースをかけた飲茶料理で、
私が香港に行ったら必ず食べる大好物。
店によって味が違うため、美味しくない店もある。
そう言うと師父は‘腸粉’を注文しようとするではないか。
「いいよ、いいよ。お粥だけでお腹いっぱいになっちゃうから、いりません」という私を完全無視して、
「大丈夫、食べられるよ」とお姉さんに注文してしまった。

こんなやりとりをしている私たちにお姉さんは笑いながら「私、あなたのこと覚えてるわよ!」
「去年も来たでしょ!」と。うわっ、すごい記憶力!
それともここは地元の人がほとんどだから外国人が珍しくて、印象に残っていたのか?
私は、食べられないよ〜と言いながら、お粥も全部たいらげ、大好物の腸粉もたいらげたのでした!
食うた、食うた・・・
でがけにお姉さんは「あなたは‘不惜壊人’だ」という。
良い人に見えたのか?それとも、怖いもの知らずに見えたのか?謝謝です!

 記憶力抜群のお姉さん


さてと、今日は師父夫妻と日帰り観光にいってきまーす!
すっかり師父の好意に甘えてしまって、いいのかなあ・・・(この様子は香港5月31日をどうぞ)

 師父夫妻



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